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不動産図面の多言語翻訳を自動化するSaaSを開発・外販へ
Google GeminiとAnthropic Claudeを組み合わせ、図面1枚の作業時間を約10分から約1分に短縮

株式会社エンシマ 代表取締役 松井明夫様

株式会社エンシマ様は、外国人向け不動産取引の増加を背景に、日本語の物件図面を英語・中国語に翻訳して自社ブランドのレイアウトでPDF出力する「不動産図面AI翻訳システム」を構想し、サービスとして展開しています。図面のアップロードから画像・文字情報の自動抽出、翻訳、PDF出力までをワンストップで処理するSaaSで、従来Excelで1枚あたり約10分かかっていた作業負担の大幅な軽減を実現するものです。
ベンジャミンでは、この要求を満たすため、画像・文字抽出にGoogle Gemini、翻訳にAnthropic Claude(Amazon Bedrock経由)を採用し、AWS上に構築。技術開発にとどまらず、ビジネスモデル設計や利用規約の整備までを伴走し、βテストから販売開始までをサポートしました。

ビジネスの課題

  • 外国人向け取引の拡大に伴う多言語対応チラシ作成の手間とミスの多発
  • ExcelやPaintなど各社が独自の手法で対応しており、業務効率化が進まない状況
  • 当初依頼した別の開発者では期待レベルに達せず(完成度60〜70点)、外販・改修も困難な状態

効果

  • 図面1枚の作業時間を約10分から約1分に短縮(約1/10)
  • βテスト5社中2社が申込済み、1社が要望反映後に申込見込み
  • 管理画面・カウンター機能など運用管理の仕組みを新たに整備

「自分が本当に使いたいもの」から生まれた、不動産業界への問題提起

株式会社エンシマ様は、代表取締役 松井明夫氏の家族が保有する物件の資産運用・管理を目的として設立された不動産会社です。
松井氏は宅建免許を取得したのち同社に参加し、「不動産業界でAIを活用した新しい取り組みができないか」と模索するようになりました。

松井氏が着目したのは、外国人向け不動産取引における多言語対応の課題です。外国籍の顧客への物件案内が増える中で、日本語で書かれた物件チラシや間取り図を英語・中国語に翻訳するニーズが急速に高まっていました。しかし不動産業界は、ITやデジタルツールの活用が他業界に比べて遅れています。各社が独自の方法で対応しており、Excelのシートに物件名や住所を手入力し、写真をスクリーンショットで切り取ってリサイズする作業を繰り返すのが一般的でした。図面1枚の作成には約10分を要し、スペルミスや金額の記入ミスも頻発していたと松井氏は振り返ります。Excelのフォーマットすら使わず手書きで対応する業者も少なくなく、松井氏は業界の三〜四割はそうした状況にあると見ています。

自身が営業現場で感じてきたこの不便さを解消しようと、松井氏はシステム開発に踏み切ります。「開発にあたり常に意識していたのは、自分自身が本当に使いたいと思えるものを作るという点です。日常的に使う掃除機でも、自分が使ってみて満足できないものを他の方に勧めることはできません。それはどの業界においても同じ」と語ります。最初に知人のエンジニアに依頼して開発したシステムは、自己評価で60〜70点の仕上がりにとどまりました。AIを活用した機能の調整は専門性が高く、自分では細部の改善が難しい。一度はプロダクト断念も検討したといいます。

複数のAI開発会社への再相談を経て、SI企業のマッチングサイトでベンジャミンと出会いました。最終候補に残ったもう1社は提示価格も同等でしたが、開発体制はベトナム拠点のメンバー中心。日本語でのやり取りには支障がないものの、不動産特有の細かい用語や表現を扱う上で認識のずれが懸念されました。比較検討の中でベンジャミンを選んだ決め手は、日本人PMによるコミュニケーション、大手不動産会社との取引実績、そして受注前から精度の実証を示した技術検証の三点でした。松井氏は「不動産関連の細かい要件で、もしコミュニケーションがうまくいかなかったら、と感じた点もあって。同じような金額でやるなら、より理解してくれる方を選んだ方がいい」と振り返ります。

Google GeminiとClaudeで精度の壁を突破、ビジネスモデルの設計まで伴走

開発にあたってベンジャミンがまず取り組んだのは、技術選定です。画像・文字情報の抽出にあたっては、Meta社のSAM(Segment Anything Model)をはじめ複数の技術を比較検討しました。その結果、Google Geminiが本案件の要件に対して最も高い精度を発揮することが確認できたため採用を決定。翻訳機能にはAnthropic Claude(Amazon Bedrock経由)を活用し、アプリケーション基盤はAWS Amplifyを中心としたAWSフルマネージドサービスで構成する設計に落ち着きました。

システムの中核となる機能は、物件チラシ画像をアップロードすると、間取り図・外観・内観などの画像情報と物件名・賃料・専有面積といった文字情報をAIが自動抽出し、英語または中国語に翻訳して自社ブランドの帯(ロゴ・担当者名・QRコード)付きPDFとして出力するというものです。物件タイプは賃貸・売買・投資目的売買の3パターンに対応しており、賃料や売却価格など項目の種類が異なるフォーマットをそれぞれ整備しています。AIによる自動抽出の後、マウス操作で抽出エリアを微調整できる設計としたのも、AIでの認識の限界を補完する工夫です。自動処理の精度を最大限に高めながら、最後の仕上げは人間が直感的に操作できる余地を残すことで、現場での使い勝手を確保しています。

開発上の難所は、文字情報の抽出と翻訳後のレイアウト処理でした。不動産図面には多様な書式があり、設備情報が個別に記載されているものもあれば備考欄にまとめられているものもあります。翻訳後のテキストはどうしても原文より長くなりがちで、限られたPDFのフォーマット内に収める整形処理には細かな調整が必要でした。松井氏が「一番印象に残っている」と話す苦労が、物件名の英語変換です。「漢字3文字程度でも、英語にすると一気に長くなってしまう」と松井氏は説明します。文字がフォーマットからはみ出ないようプログラムで調整する処理は、特に物件名が長い場合や複数の翻訳が重なる場面で難易度が上がり、ベンジャミンが繰り返し精度を高めた箇所でもあります。画像の切り抜き判定も同様で、図面によっては影の部分を画像として認識できないケースがあり、入力ファイルの特性に合わせた細かいチューニングが続けられました。

ベンジャミンの伴走はシステム開発だけにとどまりませんでした。SaaSとして他社に販売することを見越し、ビジネスモデルの設計段階から議論に参加。APIキーの費用負担の整理、利用規約の策定、販売フローの整備まで、松井氏が気づいていなかった論点を次々と提案。サブスクリプション設計を適切に行うことができました。2週間に1回程度のオンライン定例会では、進捗状況の報告とフィードバックのやり取りを積み重ねました。松井氏は「スケジュール感、進捗状況の報告が非常に丁寧でした。」と話します。

5社へのβテストで確かな手応え ― 本格拡販へ

エンシマ様は知人の不動産会社5社を対象に約2ヶ月にわたるβテストを実施しました。「劇的に変わったというのは、みんな言っていますね」と松井氏は手応えを語ります。5社のうちすでに2社がすぐに正式申込を済ませ、もう1社も要望を反映した改善後に申込の見込みです。作業時間の大幅な短縮に加え、「想像以上のクオリティ」という声も届いているといいます。

βテストを通じて、当初は想定していなかった要望も見えてきました。間取り図の中の日本語表記の変更です。これは、松井氏自身も「盲点だった」と語ります。ほかにも、間取り図の左右配置を変えたい、自社のレイアウトパターンを増やしたいといった細かい要望も挙がっており、フィードバックを丁寧に拾い上げながら本サービスに向けた改善が行われています。

松井氏が今後さらに磨き込みたいと考えているのは、エンドユーザー側でのAPIキー登録の体験です。API利用料を顧客側で負担いただく明瞭な課金モデルを採用できた一方、「IT機器に不慣れな方が多い不動産業界では、登録の手間がスムーズな導入の障壁になりかねない。システム内から直接登録できる仕組みがあれば、よりストレスなく導入していただけるのでは」と話します。

今後の展望について松井氏は、「ご協力いただいている5社からのフィードバックを活かしながら改善を重ね、まずは限定的な形で販売を開始していきたい。また、多言語対応の拡充にも取り組み、さらなる機能強化を図っていく予定です」と話します。将来的には入退去時の費用見積もりシステムなど、不動産業界の業務を支援する次のプロダクト構想も温めています。

松井氏はベンジャミンとの協業を振り返り、伝えたいことをしっかり汲み取ってもらえたと評価します。技術に詳しくない側が「こういうものを作りたい」と伝えるだけで、適切に対応してくれる。そのコミュニケーションのフィット感が、最終的な選択の根拠だったと松井氏は言葉にします。AIツール開発という新しい軸を切り開きながら、業界のデジタル変革に挑む同社の歩みを、ベンジャミンはこれからも支援してまいります。

お客様概要 / 株式会社エンシマ様

所在地
東京都大田区千鳥2丁目36番8号JMSChidori205号室

設立
2022年4月

事業内容
不動産紹介業、不動産図面AI翻訳システムの開発・提供

株式会社エンシマ様は、不動産管理会社として設立。不動産紹介業を営む傍ら、AIを活用した業界特化型SaaSの開発にも注力しています。「不動産図面AI翻訳システム」を皮切りに、業界のデジタル化遅延に切り込む独自のアプローチで、新たな事業領域の開拓を進めています。