Case study

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岩崎電気株式会社様

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カメラ付き照明と連携したクラウド型統合管理システム「ENEPEACE」に
生成AIサービスAmazon Bedrockによる自動監視機能を搭載
──防災・安全管理業務の効率化を加速

岩崎電気株式会社様は、長年にわたり照明機器の製造・販売を手掛けてきた老舗メーカーです。近年では照明事業に加え、アマゾン ウェブ サービス (AWS) 上に構築したクラウド型統合管理システム「ENEPEACE」を展開し、自治体や企業の安全・防災対策をサポートしています。2025年3月、同社はAWSパートナーのベンジャミンと協力し、「ENEPEACE」にAmazon Bedrockを活用した生成AI画像解析による自動監視機能を追加。カメラの映像から道路冠水や事故などを自動検知し、通知するシステムを実現しました。昨今の労働力不足が深刻化する中、監視業務負担の大幅軽減と精度向上を同時に達成しています。

ビジネスの課題

  • 監視カメラの設置数増加に伴う、24時間体制の人的監視業務の負担増大
  • 人手不足時代における自治体の限られた人員での監視体制維持の難しさ

効果

  • Amazon Bedrockの Claudeモデルを活用した自動監視により監視業務の労力を大幅削減
  • Web画面でのプロンプト設定機能により、冠水・雪害・事故など多様な監視ニーズに柔軟に対応

照明事業の差別化と監視システムの人的負担軽減が急務に

岩崎電気様は、5,500種類の光源を生産する技術リーダーとして知られ、「IWASAKIブランド」での照明器具や光・環境製品を世界に提供しています。都市景観やスポーツ施設、商業施設などの照明を手がける一方で、環境保全分野では紫外線殺菌や水処理、EB技術を開発し、情報化社会分野では印刷・製版システムや情報表示技術なども提供しています。このように、技術の幅広さと深さが同社の大きな強みとなっています。

近年、照明業界は技術革新とグローバル競争の波に直面し、単なる「照らす」機能だけではなく、付加価値を提供することが求められるようになりました。こうした変化に対応するため、岩崎電気様では事業変革を「第2創業」と位置づけ、長年培ってきた光技術を基盤に、防災や安全・安心をテーマとした新たなソリューション開発に取り組んでいます。

特に注目したのが、街中の高所に設置される照明器具という「場所の優位性」です。この特性を活かし、照明にセンサーやカメラを組み合わせた監視ソリューションの開発に力を注ぎ、従来の照明メーカーの枠を超え、社会インフラを支える企業への進化を目指しています。

具体的には、2021年頃から道路灯にセンサーやカメラを組み込んだ製品の提供を開始し、2022年ごろからは道路の冠水状況をセンサーで監視・発報するシステムをベンジャミンと共にAWS上に構築しました。さらにこれを発展させ、2024年には自社開発のクラウド型統合管理システム「ENEPEACE」として展開を本格化しています。

しかし、「ENEPEACE」のセンサーと連携した通知機能には課題もありました。同社イノベーション推進部 イノベーション推進課長の大脇 理 氏は、「センサーは冠水しているかどうかを把握できますが、実際に現場がどのような状況になっているかまではわかりません」と語ります。さらに、照明ソリューション事業部 商品開発部 第一開発課の東藤 毅 氏も、「カメラを大量に設置しても、多くの自治体では人員が不足しており、24時間体制で映像を監視するのは現実的に困難です」と、お客様の課題を説明します。

岩崎電気株式会社 イノベーション推進部 イノベーション推進課長 大脇 理 氏

この課題解決のきっかけとなったのは、2024年に参加したイベント「AWS Summit Japan」でした。大脇氏は「生成AIの事例を見て、活用できるのではないかと考えました」と当時を振り返ります。同社では再びベンジャミンに相談し、生成AIを活用した新たなソリューションの開発が始まりました。

「路面冠水監視システムをAWS上に作っていましたし、今回の生成AIによるカメラ映像監視・通知についてもサーバレス環境で動作したいということもあり、ベンジャミンに依頼しました。また、ベンジャミンが生成AIのプロジェクトの経験が豊富で知見もあることも決め手になりました」と東藤氏は説明します。

岩崎電気株式会社 照明ソリューション事業部 商品開発部 第一開発課 東藤 毅 氏

Amazon Bedrockを活用した生成AI画像解析・監視システム

2024年9月、岩崎電気様とベンジャミンは、生成AIによる自動監視機能を追加するプロジェクトを開始しました。開発の核となったのは、AWSの生成AIサービス「Amazon Bedrock」と、そこで動作する生成AIモデル「Claude」を活用した画像解析技術です。

システム構築にあたっては、複数のAWSサービスを組み合わせた統合的なアーキテクチャが採用されました。まず基盤としてAWS Amplifyを活用し、フロントエンドからバックエンドまでをシームレスに連携させたWebシステムを構築。AWS Lambdaが定期的に各カメラから画像を取得し、その画像をAmazon Bedrockに送信して、Claudeが解析を行います。

Web画面上では、生成AIに対するプロンプトをカスタマイズできる設計とし、監視対象や条件を現場のニーズに応じて柔軟に変更できるようにしました。さらに、異常が検知された場合には自動的に担当者へメール通知が送信される仕組みを組み込み、迅速な対応を可能にしています。

なお、生成AIモデルについてはコスト効率も考慮し、主により安価な「Claude 3 Haiku」を利用する構成としました。

自動監視システムのアーキテクチャ

プロンプト設計は、システム開発における大きな課題の一つでした。東藤氏は、「単に画像を送信して『冠水していますか?』と尋ねるだけでは、有用な回答を得ることは難しいため、システム全体の動きを見据えた段階的なプロンプト設計が重要でした」と振り返ります。たとえば、まず道路に水たまりがあるかを確認し、その次に水たまりの規模を判断し、最終的に冠水と見なすかどうかを、段階を追って判断させる──こうした思考の過程をたどらせる「Chain-of-Thoughtプロンプティング」の考え方を取り入れることで、解析結果に応じた選択肢を示し、適切にアラートを発報する仕組みを構築しました。

また、カメラ画像は昼夜や天候、対象物の違いによって見え方が大きく変化するため、それらの環境条件に応じた命令を工夫したプロンプト設計も求められました。東藤氏は、「状況に応じて適切な指示を出せるよう、ベンジャミンの担当者と協力しながらプロンプトを随時調整していきました」と開発過程を説明します。

さらに、コスト最適化にも工夫が施されています。天気予報APIと連携し、天候に応じてAWS Lambdaの実行頻度を自動調整できる仕組みを導入。晴天時には画像取得の間隔を長く、雨天時には短く設定することで、必要なタイミングで適切な頻度の監視を実現しています。

冠水状況を把握し、スマートフォンに警告を自動送信するイメージ

監視業務の大幅な効率化と柔軟な監視システムの実現

生成AIによる自動監視機能は、2025年3月末に完成しました。最も大きな成果は、これまで多くの人手と時間を要していた監視業務の労力が大幅に削減されたことです。システムが24時間365日体制で自動監視を行うことで、人間の監視員は異常が検知された際の詳細確認に集中できるようになり、業務効率が飛躍的に向上しています。

さらに、Web画面上で監視条件やプロンプトを自由に設定できるようになったことで、各設置現場の特性や監視目的に応じた柔軟なカスタマイズが可能となりました。これにより、道路冠水の監視にとどまらず、雪害検知や交通事故検知など、多様なニーズに対応できるシステムへと進化しています。加えて、サーバレス環境での自動化により保守コストも削減され、自治体の限られた予算内での持続的な運用が実現しています。

東藤氏は、「道路の冠水監視に関しては多くの自治体様が興味を示してくださっており、それとは別に、雪害の検知にも高い関心を寄せる自治体様もいらっしゃいます」と顧客の反応を説明します。特に雪害対策においては、従来のセンサーでは数値データしか取得できず、現場の状況を十分に把握できないという課題がありました。これについて東藤氏は、「以前は、雪かきが必要な道路を判断するためにセンサーを活用していましたが、得られるのは数値のみで、半信半疑のまま除雪作業に向かわざるを得ないケースも多くありました。現在は、従来使用していた有線センサーをすべて置き換えたいと考えるほど、非常にポジティブなご意見をいただいております」と語ります。

このプロジェクトは、岩崎電気社内でも高く評価されています。大脇氏は、「カメラ付き照明の販売拡大にもつながるため、今後は積極的に展開していきたいと考えています。実績を重ね、さらに精度を高めることで、『ENEPEACE』の提案活動もより進めやすくなると期待しています」と展望を語ります。

また、大脇氏は「ENEPEACE」の今後について、「災害予測への貢献を視野に入れています」と語りました。現在の道路冠水監視は、冠水発生の状況を通知する仕組みですが、今後は雨の降り方や水たまりの形成状況、さらに天気予報などの外部データを活用し、より早い段階で警告を発する仕組みづくりを目指しているといいます。

東藤氏も、日々蓄積されるカメラ画像データの活用に期待を寄せています。「過去のデータから、たとえば冠水している場面だけを抽出するなど、目的に合った画像や過去の事例を迅速に把握できるようにしたいと考えています」と話し、将来的には災害予測や警告、さらには災害後の検証にまで活用できる貴重なデータベースとなることを見込んでいるのです。

開発パートナーであるベンジャミンについて東藤氏は「こちらから相談した際も、ほとんどの場合、容易に『できない』とは言わず、丁寧に検討し提案してくださるため、その姿勢は非常に頼もしく感じています」と評価します。大脇氏も、「サーバレスアーキテクチャに加え、多様な生成AIに関する知見など、先端技術にも精通しているため、非常に心強いパートナーです」と話しました。

照明メーカーとして長い歴史を持つ岩崎電気様ですが、「ENEPEACE」の展開によって新たなビジネスモデルへの進化を遂げつつあります。ベンジャミンとしても、今後さまざまな価値提供に貢献していきたいと考えています。

お客様概要 / 岩崎電気株式会社様

所在地
〒103-0004 東京都中央区東日本橋1-1-7 京王東日本橋ビル

事業内容
各種光源、照明器具、光環境機器(紫外線・赤外線・電子線応用)などの製造及び販売 

従業員数: 1,578名(2023年3月31日現在。連結) 

岩崎電気様は、経営ビジョンに「光技術と新たな技術の結合で、社会・産業インフラを支える先進企業を目指す」を掲げ、1944年の創業以降、光テクノロジーを中心に社会に革新的な価値を提供してきました。主要事業として「照明事業」と「光・環境事業」を展開。照明事業では市場ニーズに応える製品を、光・環境事業では紫外線や赤外線などの技術でソリューションを提供しています。これらの事業を推進するためのサプライチェーン強化やIT・DX推進、新技術開発に力を注ぎ、SDGsを含むサステナビリティ活動も展開しています。

利用した主なAWSサービス

  • Amazon Bedrock (Claude)
  • AWS Lambda
  • AWS Amplify
  • Amazon DynamoDB