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NTTプレシジョンメディシン様

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生成AIがもたらした医療カルテマニュアルの革新

AWSのAIサービスを活用し、電子カルテサービスのユーザーサポートを強化

NTTプレシジョンメディシン株式会社は、医療機関のデジタル化を支援する電子カルテサービス「モバカル」シリーズを提供しています。中でも在宅医療機関向けの「モバカルネット」は2012年の提供開始以来、2025年3月時点で1,800件を超える導入実績を持つ主力製品です。同社はこのサービスのユーザーサポート強化のため、アマゾン ウェブ サービス (AWS)パートナーであるベンジャミンと協力し、Amazon Bedrockを活用した生成AIチャットボットを開発。2025年3月から運用を開始しました。これにより、従来のマニュアルチャットボット管理の運用負荷を大幅に軽減しつつ、ユーザーからの問い合わせに対してより柔軟かつ正確な回答を提供できるようになりました。

ビジネスの課題

– マニュアル更新と既存のマニュアルチャットボット管理の二重メンテナンスによる運用負担の増大
– 既存チャットボットでは事前設定した質問にしか対応できず、網羅性に欠けていた
– サービス機能の更新スピードに対して既存チャットボットの更新が追いつかない状況

効果

– マニュアルから自動的に情報を取得する仕組みにより、従来月10時間以上かけていた登録作業が不要に
– 中堅レベルのサポート担当者と同等の回答速度と網羅性を実現 ・約85%の正答率を実現

膨大なマニュアルチャットボットのコンテンツ管理とユーザーサポートの課題を抱えていた「モバカルネット」

NTTプレシジョンメディシン株式会社(以下、NTT-PM)様は、医療のデジタル化とデータ活用による個別化医療の実現を目指し、2024年にNTTグループの医療・ヘルスケア事業を統合して発足しました。同社が提供する「モバカルシリーズ」は、医療機関のデジタル化を支援する電子カルテサービスとして、特に在宅医療機関向けの「モバカルネット」は2012年の提供開始以来、高い評価を得ています。このサービスは、医師や看護師がタブレット端末を利用して訪問先でカルテ情報を確認・更新できるようにし、在宅医療の効率化とセキュリティ確保を両立させています。モバイルデバイスへの対応やリアルタイムでの情報共有、音声入力、医事文書の自動生成など、現場の負担を軽減する機能を備え、2024年度末時点ではすでに1,800件を超える導入実績があります。サービスを日々拡充する中で、同社はさらなる顧客満足度向上を目指して生成AIの活用を検討していました。その過程で、ユーザーサポートの負担が大きい点に着目し、この領域でのAI活用に取り組むことになりました。

「従来のチャットボットでは、質問と回答を一つ一つ登録する必要があったためモバカルネットの機能追加のスピードに追いつかず、内容の反映が遅れることが課題でした。マニュアルとチャットボットを別々に更新する必要があり、二重管理による負担も大きくなっていました」と語るのは、同社のメディカルインフォメーション事業部 医療情報サービス推進 ビジネス推進グループ担当課長の樋口正典氏。

樋口 正典氏:NTTプレシジョンメディシン株式会社 メディカルインフォメーション事業部 医療情報サービス推進 ビジネス推進グループ 担当課長

また、同事業部でコンタクトセンター部門を担当する業務ソリューショングループの松丸尊浩氏は次のように説明します。「以前からチャットボットを使ってはいたのですが、そちらでは我々自身が質問とその回答を用意して、それでお客様の質問に対して回答するということをしていました。そのため、私たちが想定していない質問には回答ができないという網羅性の課題がありました」

実際、チャットボットの運用負荷も大きな問題でした。松丸氏は「300ページ以上のWEBマニュアルの記事と200ページ超の基本操作マニュアルに加え、ユーザーからのよくあるお問い合わせをもとに、月10時間以上のメンテナンスを要していました。それでも総数で700〜800件分の情報にとどまっており、数量や網羅性に欠ける状況でした」と説明します。

こうした課題を抱える中、生成AIの急速な進化が新たな可能性を開きました。樋口氏は「以前からモバカルネットをご利用いただいている医療機関の皆さまから、『AIを活用して入力補助ができないか』といったご相談を、コールセンターを通じていただくことがありました。そうした背景に加え、昨今の生成AIに対する注目の高まりもあり、時代の流れとしてもその導入を検討すべき段階に来ていると感じました」と話します。

2023年頃から生成AIの活用を検討し始めたNTT-PMは、2017年からモバカルネットのインフラストラクチャー保守・運用を担当していたAWSパートナーのベンジャミンに相談を持ちかけました。樋口氏は「ベンジャミンはモバカルネットの構成に詳しく、新機能を追加する際の実装や親和性が高いものを準備していただけるという強みがありました。また、他の自治体システムでも生成AI導入の実績があり、スピード感をもって実施できるという理由から2023年12月ごろに相談し、2024年初めから課題の洗い出しが始まりました」と当時の判断について話しました。

生成AIを活用したチャットボットをAWS環境で展開

ベンジャミンが提案したソリューションは、生成AIとベクトル検索技術を組み合わせたチャットボットでした。このシステムは、既存のマニュアルやFAQをナレッジベースとして活用し、ユーザーからの自然言語による質問に対して最適な回答を自動生成する仕組みです。

技術的には、マニュアルのWebページやファイルをAmazon OpenSearch Service上のベクトルデータベースに登録。ユーザーの質問が入力されると、その内容もベクトル化され、類似度に基づいて関連情報を検索し、Amazon Bedrock経由で接続された生成AIモデルが適切な回答を生成します。

生成AIモデルの選定については、AWS環境での利用可能性、日本語での自然な文章生成能力、構築や運用における負荷の低さ、そしてコスト面を総合的に検討した結果、「Anthropic Claude 3 Haiku」を採用しました。

このAIチャットボットシステムはモバカルネットとは別の環境としてAWS上に構築されています。松丸氏は「モバカルネット自体がクラウド型の電子カルテなので、AWSの各種サービスとの親和性が高く、今回のチャットボットを皮切りに、さまざまな展開をイメージできるものになりました」と語ります。

開発過程では、AIの回答精度を高めるための取り組みが重要でした。松丸氏は「実際にお客さまからのお問い合わせ対応を行っているメンバーの協力を得て、よくある質問をカテゴリーごとに整理しながら、代表的なお問い合わせをピックアップしました。おおよそ300〜400件ほどの項目を抽出し、現場の声に近い質問に対してAIがどの程度正確に回答できるかを確認するという方法で評価を行いました」と説明します。

開発は週次の定例ミーティングを通じて進められ、ベンジャミンからの進捗報告とNTT-PM様側からの検証結果を共有し、フィードバックと改善を繰り返す形で行われました。特に評価の段階では、コールセンターのメンバーも参加し、カテゴリーごとに質問項目を割り当て、AIが生成した回答と事前に想定していた回答を照らし合わせるという方法が採られました。

「検証とチューニングを重ねて、AIチャットボットは約85%程度の正答率を達成することができました。我々コールセンターの業務を行っていく中で大体3年から4年程度実績を積むと中堅レベルと判断しますが、それと同等の回答速度と網羅性を導き出すことができたと考えています」と松丸氏は成果を説明します。

松丸 尊浩 氏:NTTプレシジョンメディシン株式会社 メディカルインフォメーション事業部 医療情報サービス推進 業務ソリューショングループ

利用拡大と運用効率化を実現──精度管理まで見据えたチャットボット運用

2025年3月に一般公開されたAIチャットボットは、ユーザー体験・運用面の両面で効果が表れています。樋口氏は「以前のチャットボットは使いやすいとは言えず、利用率も低かったのですが、今回のリリースをきっかけに、少しずつ利用が広がりつつあります。」と語りました。

また、チャットボットがマニュアルから自動的に情報を取得する仕組みとなったことで、登録作業が不要になり、運用の負荷が大幅に軽減されています。松丸氏は「回答可能な範囲も大きく広がり、網羅性が高まりました」と話します。

モバカルネットでのAIチャットボット利用イメージ

このプロジェクトは、リリースして完了ではなく、回答の品質を管理していく仕組みも整備されました。チャットボットの回答精度を保つため、マニュアル更新後にナレッジベースの検索と応答の精度を毎月評価しています。もしも前月より精度が下がっていれば、原因を調査し、必要に応じて設定やデータを見直すことで、安定した運用を維持しています。

樋口氏は「ユーザーの質問とチャットボットの回答内容を記録・確認できる履歴機能を設けたことで、週次で社内メンバーが履歴を確認し、回答内容に問題があればマニュアルを修正したり、必要に応じてベンジャミンに依頼してチューニングを実施したりする体制が整っています」と説明しました。

NTT-PMでは、今回のチャットボット導入をきっかけに、AIのさらなる活用を進めています。樋口氏は、音声認識技術の活用についてベンジャミンに相談しているとし、次のように語りました。

「この取り組みは、在宅医療の現場におけるニーズを背景としています。医師が患者さまのご自宅を訪問し、10分から20分ほど会話を交わす中で、そのやり取りをすべて録音し、文字に起こして記録として残したい。さらに、その内容を自動で要約し、カルテに反映させたいというご要望が出発点になっています」

これらの取り組みに対し、NTT-PMはベンジャミンの技術力と柔軟な対応に対して高く評価しています。

松丸氏は、「プロジェクト当初から関わっている方々が把握している内容の中には、私自身が知らない部分も多くありましたが、そうした点も丁寧にフォローしていただき、大変助かりました」と振り返ります。

また、樋口氏も「説明が非常にわかりやすく、安心して進めることができました。特にセキュリティ面での配慮が行き届いており、チャットボットを安全に運用するための注意点や、いたずらによる無駄な利用を防ぐ仕組みなども、事前に検討・提案していただけた点が非常に心強かったです」と話しました。

モバカルシリーズは、医療現場の課題解消に貢献し、高い人気を得ています。ベンジャミンとしても、今後もAWSの最新技術を活用したサービス体験向上や運用負担の軽減などに貢献してまいります。

NTTプレシジョンメディシン株式会社様

所在地
〒100-0004 東京都千代田区大手町1-5-1 
大手町ファーストスクエア イーストタワー

事業内容
医療機関のデジタル化を促進する関連サービスの提供、医療情報等データ活用を通じたメディカル・ヘルスケアサービスの提供、遺伝子等検査サービスの提供

NTTプレシジョンメディシン株式会社様は、NTTグループの医療・ヘルスケア事業を統合し、2024年に発足。個別最適な予防・医療の実現を目指し、遺伝子検査や医療機関のデジタル化支援、データ利活用サービスを提供しています。診療・検査・遺伝子データを統合する「Japan プレシジョン・メディシン プラットフォーム(JPP)」を構築し、研究・創薬を支援。科学と医療の融合で、人々の健康と幸福の実現を目指しています。